『 まわるリモートチームのマネジメント術 』発売記念『試し読み』公開

『 まわるリモートチームのマネジメント術 』の発売を記念して、今回はこの本から「はじめに」「みんなが同じ方向を向ける目標管理術」「『心理的安全性』を高め、チームを活性化させる」を紹介いたします。

まわるリモートチームのマネジメント術
まわるリモートチームのマネジメント術

はじめに

従来の日本人の働き方は、みんながオフィスに来て顔を合わせて仕事をするものでした。しかし2020年春頃から、新型コロナウイルス感染症対策としてリモートワーク経験者が飛躍的に増えました。これを機に、オフィスで仕事をする意味、仕事への向き合い方、QOL(クオリティ オブ ライフ)など、いろいろと考えさせられた人も多いのではないでしょうか?

日本では国が中心となり、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方である「リモートワーク」を数年前から推進してきました。ワークライフバランスの実現 、地域の活性化、労働力人口の確保などのためです。
また、子育て、家族の介護などの事情で、決まった勤務時間にオフィスで仕事をすることが難しい人達もいます。このような状況の中で、多様な働き方の実現を企業は求められています。

さて、多くの人がリモートワークをするようになりましたが、従来の仕事の進め方では、うまくいかないことも増えてきました。実際に多くの人が、どうやってリモートチームと向き合い、仕事を進め、マネジメントしていけばいいのかといった悩みを抱えているのではないでしょうか。そこで、私がこれまでにやってきたこと、学んできたこと、見聞きしてきたことなどを紹介します。

私は日本のIT企業や外資系製造企業で働いてきたのですが、アメリカやドイツ、韓国、東南アジア諸国、オーストラリアなどにいるリモートチームと計10数年、仕事をしてきました。彼らと現地で仕事をすることもありますが、一度も直接顔を合わせていないメンバーもいました。

どの国においても、商習慣や価値観の違い、情報不足などから、関係者との意見の対立や衝突、想定外のことはよく起きました。「物事がスムーズにいかない」それが世界の常識だとさえ思うようになったのです。

そういった経験から、リモートで多様なメンバーと仕事をする上で、目的や目標、成果の明確化や数値化、コミュニケーションの大切さなど多くを学びました。多様なメンバーと仕事をする上では、業務の標準化や仕組みづくりなどが必要不可欠です。また多様な視点や考え方を尊重する大切さも学びました。

10年以上、国や年齢、性格、経験や実力などが違う、多様なメンバーと協力し合い、成果を出すためのマネジメントに力を入れてきたのですが、この経験やノウハウが、みなさんのリモートワークを成功させるヒントになると確信しています。

本書はツールの使い方の説明ではなく、チームで仕事をうまく進めるために、何をするのか、なぜするのかを中心に紹介していきます。テクノロジーは常に進化します。ツールやサービスはどんどん新しいものが出てきます。私たち自身がやり方を常に見直し、改善しなければなりません。どのようにやるかよりも、何をやるか、なぜするのか、のほうが大事だと思います。そこに焦点を当てていきます。

本書を通じてみなさんは、リモートチームと協働して、チームとして成果を出せるようになります。オンラインでも信頼関係が構築でき、助け合いながら仕事を進められるようになるでしょう。そして、リモートワークにより、きっと自分や仲間の望むライフスタイルやキャリアデザインが設計され、人生もさらに輝くことでしょう。
本書がその一助になれば、これにまさる喜びはありません。

そしてこの働き方を得て、3年後、5年後に振り返ったときに、「このタイミングで、リモートチームのマネジメントを学んでよかった」と思っていただければ幸いです。

みんなが同じ方向を向ける目標管理術

チームで同じ方向を見ることは大切です。しかし目標が曖昧だと、立場によって解釈が違ってきて、それぞれの立場で正しいと思う方向に向かいます。
こんな場合でも毎日顔を合わせていれば、ちょっとした会話から違和感を覚え、方向性の違いに気づくこともあります。しかしリモートワークの場合、目の前の仕事に集中しやすいため、そのような違いに気づくのが難しいのです。結果、オフィスで仕事をするときよりもバラバラに行動してしまうという可能性が高くなります。

したがってチームのみんなが共通のゴールに向かっていけるように、今まで以上に組織と個人の方向性を一致させようと努力することが重要です。

基本的には、組織の目的や目標を踏まえて、自分たちは何をやるべきかを明確にしていきます。さらに、その目標にきちんと向かっているかの進み具合を図るために指標を設定します。
そうすることで、組織から個人までの目標の方向性を統一していくのです。

まわるリモートチームのマネジメント術_組織の目標と個人の目標の関係
まわるリモートチームのマネジメント術 – 組織の目標と個人の目標の関係

例えば、組織の目標が「今年度の売上を前年と比べ、10%増やす」と掲げたとすると、そこから逆算をするようにして、個人レベルまでつなげていきます。
「今期中に、新規契約を40件とる」
「40件の新規契約をとるために、200件の商談をつくる」
「200件の商談をつくるために、2000件の電話掛けをする」

このように、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定します。企業の目標から事業、チーム、個人の目標と細分化することで、みんなが共通のゴール、同じ方向に向かっていけるようになります。

また、これ以外にもGoogleやFacebookなど大手IT企業が取り入れ、注目されている目標管理の方法として、OKR(Objectives and Key Results)があります。
定性的な目的(Objectives)とそれを実現する主要な成果指標である定量的な目標(Key Results)を、組織レベルから個人レベルまでつながりを持つように設定し、みんなの方向性を一致させるものです。

企業によって、目標管理における目的や評価の頻度、求める結果などは違いますが、大事なことは組織から個人の目標まで一貫性を持たせ、みんなが同じ方向を向くことです。そして、成果を出すために、明確な優先順位を持ち、計画を実行していけることが大切です。

また、目標は数値化され具体的でなければなりません。リモートワークのような、みんなが離れた環境で、多様なメンバーと仕事をする場合は特にですが、曖昧な目標は誤解を招きやすいものです。

まわるリモートチームのマネジメント術_OKRによる目標管理
まわるリモートチームのマネジメント術 – OKRによる目標管理

MART手法を使って「2021年12月末までに1000万円の利益を上げる」というように具体的な目標を設定していきましょう。
目標を設定することで、よりチームが自律的に動くようになります。

まわるリモートチームのマネジメント術_SMART
まわるリモートチームのマネジメント術 – SMART

「心理的安全性」を高め、チームを活性化させる

リモートワークでは、文字によるコミュニケーションが多いこともあり、ニュアンスが伝わりくい、相手の真意が掴みづらいという悩みや心理的な負担が増えます。

それを軽くするためにも、チームの中で、「他人にどう思われるか」「関係が悪くならないか」といった心配をせずに、思っていることを気兼ねなく発言できる心理的安全性が高い状態をつくっていくことが重要になります。お互いの意見や考えを素直に出し合い、チームとしてよりよい結果を得られるようにしましょう。

外資系企業に勤めていたときは、ミーティングで自分の意見を言うことが常に求められていました。チームが抱える目の前の課題を解決するため、またチームとして、いい方向に向かうためにです。意見を言わない人や同調しているだけの人は、ミーティングに参加している意味がない、価値がないと評価されてしまうのです。

とはいえ、上司や、役職が上の人の前で反対意見を言うことに躊躇してしまうこともありました。
このような状態をつくらないためには、上の立場である人が率先して、反対意見を歓迎する状態をつくり出すことが重要です。同調圧力が強いと言われる日本であれば、なおさら「和を乱す」と思われないような、誰でも素直な意見が言える場をつくっていくことが大切です。

心理的安全性の高いチームをつくっていくためには、共通認識を増やすこと、お互いを知ること、信頼関係を築くことなどが必要です。そうすることで、各メンバーが自発的に動き、仕事を進められるようになっていきます。上からの命令や指示を待つとか、責任逃れをするために、自ら判断せず必ず指示を仰ぐようなことはなくなっていきます。各メンバーが主体的に考え、協力し合えるチームとなっていくでしょう。

ただし、心理的安全性があるということは、メンバーそれぞれが自分の意見を言わなければならないという厳しい面もあります。
例えば、空気を読まずに、素直な自分の意見を言うことが求められます。自分の意見が受け入れられないとか、反対されることもありますが、謙虚に黙って相手の意見に従うことはいけません。意見の違いを認識し、共通の目標を達成するために、議論を積極的に交わし、取り組む必要があります。

不確実性の高い時代だからこそ、何が起こるかわかりません。そのため、みんなが意見を出し合い、チームとして取り組むことが重要です。

目次

はじめに

第1章 リモートチームで働くための心得

01 これが絶対という方法はない
02 みんながコミュニケーションに責任を持つ
03 今すぐ確認しないと困ることか?
04 仕事を見える化する
05 状況をオープンにして、積極的に協力し合う
06 リモートチームは監視ではなく、信頼するからうまくいく
07 労働時間依存から脱却し、成果を評価する

第2章 うまく仕事を進めるコミュニケーション術

01 コミュニケーションもプランが求められる
02 コミュニケーションの約束事をつくる
03 多様なメンバーとのやりとりで抑えたいポイント
04 メールでの気配り
05 チャットでの気配り
06 仕事以外の交流やつながり、雑談が連帯感を生む
07 仕事中はいつでも、どこでも協働できる体制をつくる
08 やりとりする時間帯を決めておくと、「ちょっと確認」がしやすくなる
09 チームとしての一体感を育む
10 意見の対立に向き合い、問題解決を目指す

第3章 リモートチームの会議・ミーティング

01 Web会議での気配り
02 ミーティングのBGMには気をつける
03 Web会議でビデオをオンにしたら、自分に注目してもらう
04 Web会議の生産性を上げる
05 オンラインのやりとりはリアルタイムだけではない
06 情報格差をなくして、チームのパフォーマンスを上げる
07 リモート環境でもブレストでアイデアを出す

第4章 リモートチームのマネジメント

01 チームづくりの5つのステップ
02 みんなが同じ方向を向ける目標管理術
03 やるべきタスクを見える化すると、仕事の割り振りもうまくなる
04 「アウトプット」と「締切」の合意で、監視をなくす
05 スクラム型で仕事を進めてみる
06 1on1でお互いを知ると、気持ちよく働ける
07 報連相は口頭や文字で伝えるだけだと思っていませんか?
08 「心理的安全性」を高め、チームを活性化させる
09 質問を見直し、実りのある話し合いにする
10 文章化からはじめる考え方の一致化
11 「助け合う」チームをつくる
12 前に進んでいけるフィードバック文化をつくる
13 感謝や表彰する文化を大切にする
14 仕事を任せて不必要な確認をやめると効率よく進む
15 違和感を覚えたら、すぐにフォローする
16 「信頼できる唯一の情報源」をつくり、共有の効率化を図る

第5章 リモートワークの落とし穴にハマらないワークスタイル

01 仕事のリズムを自分でつくる
02 マルチタスクを止め、作業効率を落とさない
03 働きすぎに気をつける
04 一人ひとりの孤独感はチームでフォローする
05 それぞれ事情を抱えているから、お互いさまの気持ちで助け合う
06 体調管理も仕事のうち
07 仕事以外でも人とつながる
08 普段とは違う環境で仕事のパフォーマンスを上げる

第6章 リモート時代の組織づくり

01 どのような人材を雇うべきか
02 ジョブディスクリプションをつくる
03 リモートでも面接はできる
04 「おもてなし」の心で、オンボーディングを支援する
05 リモートファーストの考え方
06 ワークスタイルの変化をキッカケにマネジメントや評価の着眼点を見直す
07 実際に会って交流し、価値を最大化する
08 チームとして働きやすい環境をつくる
09 時差ワークに対応する
10 「ワーケーション」という選択をしてみる
11 リモートワークできるできないかで、会社や仕事が選ばれる時代に?

第7章 自分をアップデートして、チャンスを掴む

01 有言実行し、実績をつくり、キャリアをつくる
02 変わり続けることが求められる
03 自律的にキャリアを設計する
04 自分の強みを見直し、磨き、武器を持つ
05 他人の助けを借りて成果を出し、学びも加速させる
06 個人名で勝負する

まわるリモートチームのマネジメント術